平成13年5月20日(日) 神辺公民館にて

 皆さんは強迫神経症と言う言葉を知っていますか。
小さい子どもから、大人まで、年齢性別を問わず、発症するということで、近年急激に増加しているのだそうです。
 症状は人様々ですが、例えば、自分が汚いと思っているところを触ると、何度も手を洗ったり、ガスの元栓を閉めたかどうかとても不安になり、何度も確かめに行ったりなど、1〜2回は誰にでもある行動が異常なまでに度を越してしなければ気がすまないのです。私はこの症状を聞いて、長女の事を思い出しました。

 長女が小学2年生の3学期ごろから、何かおかしいなと気付いたのです。
最初は自分のツバが、飲み込めず、口の中にためながら話をするのです。いつの間にか口の中のツバがなくなっているかと思ったら、また、たまっているといった状態が繰り返し続くのです。「どうしてツバを飲み込まないの」と聞くと「汚いから」と言っていました。
 そして、水道の水をコップに汲んでは捨て、という行動が何回も続き自分一人ではコップの水が飲めないのです。、長女は私に「私が汲んだら、コップの中にごみが入っているような気がするから、お母さんが汲んで」と言ってきました。私が水を汲んでやると1回で飲めるのです。
 また、長女の小学校の毎日の宿題に漢字の百字帳があるのですが、例えば、「池」の最初の点を書いては消し、書いては消し、と何度も繰り返すのです。私は、長女に「何度も消してたらよけいに汚くなるよ」と言うと長女は「この点をここに書いたら、次の点がいいように書けないからきれいな漢字がかけない」と言って一文字書くのに、何度も消しています。結局、1ページを書くのに、1時間以上はかかってしまいます。そして、長女は百字帳を1日3ページすると決めていて、自分で決めた事は絶対やらないときがすまない性格なので、結局、宿題が終わるのが、毎日夜中の12時〜1時頃なのです。
 お風呂に入ると、赤ちゃんがえりをしたみたいで、私が長女の体や髪の毛を洗ってやっていました。子どもも辛かったでしょうが、私も正直、辛かったです。

 そんな時、学校から購読図書の紹介で、平井信義先生の著書『心にのこるお母さん』(【株】企画室 発行)の本の紹介文を読み、早速買いました。本が余り好きでない私なのですが、私の求めていた答えが見つかったと言う思いで、涙を流しながら一晩で読んでしまいした。本の中に
 『「思いやり」が「愛」に通ずる道ではないかと考えて、6年前からグループを作って研究を進めています。「思いやり」とは、「相手の立場に立って考え、相手の気持ちを汲む」ことで、親であれば、子どもの立場に立って考え、子どもの気持ちを汲む心と言う事になります。それが毎日の生活の中で実現できている親は、おおらかな態度で子どもに接しています。つまり、子どもを叱ったり、子どもにお説教を言う事が非常に少ないものです。子どもに対して寛容ですし、それは子どもばかりでなく、どんな人に対しても発揮されます。そのようなお母さんには、お会いしてお話を聞いているだけで暖かいものを感じます。子どもも、そのようなお母さんとともに生活していると、そしてお母さんのそばにいるだけで、心があたたまると思います。』(まだまだ、紹介したいところがいっぱいあります。)

 私もこの本を読んで、心があたたまりました。仕事や学校で神経を使っている主人や、子ども達に、自分の家に帰ったら、ストレスが消え、「お母さんといるといつも楽しいし、心が落ち着く」と思ってもらえるような母親になりたいなと思いました。
そして今まで、自分の辛さばかりを考え、子どもが一番辛がっている事を忘れていた事に気付きました。私はこの日以降、子どもが私に頼んできた事は、出来るだけ嫌がらすに聴いてやろうと心に決めました。

 ある日長女と2人でお風呂に入っていると、長女は舟を浮かべ、自分で波をたて「今、みちこ号が港から出発しました。大きな波が来ています。それでも、沈みません。大きな波を何度も乗り越えて、無事にお母さん基地に帰ってきました」私は、この言葉を聞いて、涙が止まりませんでした。いまでも思い出したら、涙が出てきます。長女は自分でも辛いと思っている今の生活から必死で抜け出そうとしている、そういう思いが私の心に伝わってきました。そして、何があっても、お母さんはじぶんを見捨てないと思ってくれているんだなと感じたのです。とても嬉しかったです。

 長女が3年生になって、自転車の免許証を学校からもらって来ました。(当時、神辺小学校では、1.2年生は自転車に乗れません。3年生で、交通規則の講習を受け、自転車の免許証をもらって初めて自転車に乗ってもいいという規則になっていました。現在ではこの規則はなくなっています)「すごいね。これは、魔法の免許証よ。自転車だけじゃなく何でも効くのよ。今からみっちゃんは何でも一人で出来るようになれるよ」そのような言葉を言ったように思います。本当にその通りになりました。それまで少しずつ治っていた行動ですが、その日以来すっかり出なくなりました。
 今年、長女は大学に進学し、大阪で一人暮らしをしています。とても楽しそうです。

 長女がこんな行動をとるようになった原因はと言うと、私にとって初めての子どもでもあるし、小さい時から物覚えが良かったので、2年生になってから塾に行かせていました。長女はやめたがっていたのですが、私が毎日のように説得して、無理やり行かせていたのです。時には、塾に行った振りをして塾の近くで時間を過ごしていた事もありました。3学期になって長女は限界にきたのでしょう。強いストレスから、こんな行動が出てしまったのだと思います。このことに気が付いてからすぐ塾はやめました。

 心というのは、他人がコントロールできるものではありません。手を洗いたい、ガスの元栓を閉めたかどうか確かめに行きたい、この思いを誰も否定できないのです。そして、長女のように、強い力で、強制され、毎日自分の思いを殺して生活しているといつかは爆発してしまいます。一人でもいい、身近な人が「今、あなたはこんなことを思っているんだね」と分かってあげるだけでも、その人の心は落ち着くのではないでしょうか。